認知行動療法とは

【認知行動療法-カウンセラー視点でわかりやすく解説】

認知行動療法とは

認知行動療法について心理カウンセラーの観点から説明します。

記事の著者:ワイエスハートケア代表者

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy)はCBTとも呼ばれ、狭まった視野による考えや行動を、自分の力で自由に考えたり行動できるようにしていくことや、出来事に対しての自動思考(スキーマ)といった考え方のクセを発見し、変化させることが出来る半構造化タイプの心理療法です。

視点を増やしたり、考え方が変わることによって感情に変化が起こり、感情に伴って行動も変化します。

感情と行動が変化するとストレスが軽減してつらい身体反応や、精神疾患が改善し、寛解もしくは回復を目指すことができます。

 

もともとはアメリカのAaron T Beck(アーロン・T・ベック)が、うつ病に対する精神療法として開発したものですが、うつ病以外にも、不安症や強迫症など多岐にわたる疾患に治療効果と再発予防効果があると言われています。

 

また、現在では、精神疾患の治療としてだけではなく、法律、教育、福祉、ビジネス、スポーツなど、あらゆる領域で認知行動療法の考え方が取り入れられています。

歴史

アメリカ(1921-)の精神科医・アーロンベック先生が、うつ病の治療として1970年代に認知療法を提唱しました。

1980年代から,認知療法の適応となる病態は拡大する方向にあります。

うつ病はもちろんのこと,不安症,パニック症,さらにパーソナリティ障害や統合失調症,摂食障害,薬物依存などの物質関連障害,そして夫婦間の心理的問題へとその治療的試みは広がっています。

認知療法は,アメリカ,ヨーロッパを中心に,多くの臨床家の注目を集める精神療法へと発展していき、ベックの認知療法は,1980年代後半から特に広まりを見せ、認知療法が日本においても精神科医や心理職の間で関心を持つ人が増えていきました。

1990年代、認知療法は様々な行動研究から発達した行動療法と統合されて認知行動療法と呼ばれるようになり、多くの精神疾患の治療や再発予防に効果があることが実証され、知識と技法の範囲が拡大していきました。

発展

認知行動療法は精神療法の世界標準として、広がりを見せ、アメリカの保険会社やイギリスにおいては治療効果を正式に認め、高い信頼を得ています。

認知行動療法の始まりは、うつ病に対する治療法として確立されましたことを先に述べましたが、その後は、うつ病、パニック症、強迫症、不安症、アルコール依存症、薬物使用の問題、夫婦問題、摂食障害、統合失調症やパーソナリティ障害など重度の精神疾患にも効果が認められ、適用されるようになってきています。

 

アメリカ心理学会で紹介されていますので興味のある方は下記ウェブサイトをご覧ください。

https://www.apa.org/ptsd-guideline/patients-and-families/cognitive-behavioral

 

近年では、精神疾患のみならず、身体症状であるがん,高血圧症,肥満症,糖尿病や過敏性腸症候群、不眠症や慢性疼痛に対しても活用されるようになってきており、さらに利用が拡大され、教育や福祉、スポーツの分野でも活用されるようになりました。

日本の厚生労働省は、大学など多くの機関で認知行動療法の研究が進められ、 2010年にはうつ病は医療機関であること等の一定の要件を満たせば保険診療で治療を受けることができるようになりました。

 

2016年にはパニック症、強迫症、社交不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に保険診療の対象が拡大され、2018年には神経性過食症が加わりました。

 

厚生労働省のウェブサイトに詳しい記載があります。下記ウェブサイトより確認できます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/
hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/index.html

認知行動療法の目的

認知行動療法によって、考え方や視点、行動を変えることで、が精神疾患の改善や悩みを解決してストレスの軽減を目指すというものでありますが、根本的な目的としては、セルフコントロールする力を身に着けることができるようする点にあります。

※ 自分で何もかも解決できる力を身に着けることが目的ではないので注意が必要です。

人は一人で生きていくことはできません。

他者に頼らなければ解決できない問題が人生の中で多々出てくることでしょう。

問題解決の有無(問題を解決するか否かの選択)、誰と解決するか(自分だけ、友人、職場のチームなど)、問題に関わらないようにするのか、問題から逃避するのか、問題に対して何もしないのか。

これらを様々な環境下で、自分で考えて自分で行動することでストレスを軽減し、心身ともに健康的に楽しく過ごせるようにしていきます。

認知行動療法と心理カウンセリングの違い

心理カウンセリングは依頼者の抱える悩みに対して、カウンセラー(相談支援者)が専門的な知識・技法を用いてクライエント(依頼者)の相談や支援を行います。

この技法の中に心理療法が含まれ、認知行動療法は、来談者中心療法や家族療法、ブリーフセラピー等の心理療法の一種として含まれます。

つまり現代においては、カウンセリングと心理療法の境界はあいまいとなっており、明確な区別はされていません。

認知行動療法については、世界的に有名な心理療法であるため、心理カウンセリングとは別の扱いをする場合があります。

認知行動療法でアプローチする
4つの分類

認知行動療法では、ストレスを感じた具体的な出来事や自身の体験、他者とのやりとり(環境)を通して「頭の中に浮かぶ考え(認知)」、「感じる気持ち(感情)」、「体の反応(身体)」、「振る舞い(行動)」という4つの側面に注目し、アプローチしていきます。

下記の画像の通り、環境、認知・感情・身体・行動はすべて相互に作用します。

例として、“たまたま見かけた友人に目をそらされた”という出来事を経験したXさんの場合を考えてみましょう。

Xさんの頭の中には「目をそらされるなんて、もしかして嫌われているのかも・・・」という悲観的な考え(認知)が浮かび、悲しくてつらい気持ちになりました(感情)。つらい気持ちから心臓がドキドキしたりお腹が緩くなったり…と体にも反応が出て(身体)、人目を避けて足早に家に帰り、布団に潜り込んで泣きながら寝てしまいました(行動)。 …と、たとえばこのような形で4つの側面を整理します。

このように、ストレッサー(ストレスの原因)となる出来事によって生じる反応を「ストレス反応」と呼びます。

ストレス反応の4つの側面は互いに影響を及ぼし合っていて、悪循環を生み出すことが多いものです。そのため、上記のように4つの分類について整理して、自分のストレス反応のパターンに気づき、ネガティブとポジティブの感情のバランスを整えて、悪循環がストップできるよう調整していくことを目指します。

認知行動療法の
具体的な5つの効果

1,物事を冷静に捉えて判断
できるようになる

人は、感情と事実を混在して考えることが多く、混在によって物事うまく進まなくなくなることがあります。

感情と事実を上手に分けることができるようになることで、正確に物事(出来事・事実)を捉えることができるようになります。

感情的にならずに冷静に判断することができるようになり、発生している問題に対して負担軽減又は事前に問題(トラブル)を回避ができるようになります。

2,人間関係の悩みを解消できる

自身や他者に悪影響を及ぼす考え方(※認知の偏り)や無意識による自動思考(スキーマ)を修正することで、総合的に考え方が変わり、心にゆとりができます。

自身の心にゆとりができれば表情や態度、行動にも変化を与え、他者からの印象も変わり、人間関係の悩みを解消できるようになります。

※認知の偏りは、「認知の歪み」と呼ばれることもありましたが、人格否定と捉えるクライエントも多くいたことから、現在では聞く機会は減りました。

3,ストレスを軽減することができる

認知行動療法は患者が自分の不安な恐怖と向き合い、段階的に認知の偏りの修正を行っていきます。

不安や恐怖の原因となる事実に対する考え方に変化があれば、日常生活のストレスが大きく軽減されるため、日常生活を楽しく過ごせる機会が増えていきます。

4,感情コントロールにより心が安定する

根拠のない決めつけや白黒思考、過大評価・過小評価など、極端な自動思考に陥ってしまうと他者に否定される場面が増えて落ち込みやすくなり、ネガティブな考えによる負のスパイラルに陥っていきます。

ネガティブな感情を整えることで、他者への攻撃的な態度、自分への攻撃的な態度(私なんていらない存在なんだ…等)を減らすことができ、自己肯定感を高めることができます。

ネガティブ感情は必要な感情であることから、ゼロにすることが目的ではなく、ネガティブ感情とポジティブ感情のバランスを自身でコントロールして、心の安定を保てるようになっていきます。

5,精神疾患の予防や軽減・消失

最初のうちは「少し後ろ向きの性格」「気にしやすい性格」程度であっても、そのまま放置していると、やがてうつ病などの精神疾患へと悪化しかねません。認知行動療法は、精神疾患を発症する前の段階で用いることで、心のバランスを整えて精神疾患の発症を未然に防ぐ効果があります。

また、うつ病やパニック障害などは再発率が高い精神疾患です。抗うつ薬などを使った薬物療法で一度は症状が治まっても、服薬をやめると不安になり、また症状が出るのではないかという恐怖心から再発する可能性があります。

認知行動療法は、数カ月の期間をかけて少しずつ心のバランスを整えていく技法であり、認知行動療法を通して患者は自分の心や不安との向き合い方を学んでいくことで、精神疾患の症状が軽減又は消失し、かつ、薬物療法と比べて副作用の心配がほとんどない上、回復後の再発率が低いというメリットがあります。

すでに精神疾患を患っている方にとっては、脳機能回復のリハビリ効果があるとも言えます。

メリット・デメリット

メリット

実践により着実に前へ進める

認知行動療法の大きな特徴は、直接クライエントが実践することで、着実に効果が出るという点にあります。抱えている問題を話し合うだけでなく、その解決方法を明確にし、日常生活の中で実践していきます。

じっくりと着実に効果が出ていることを実感できるため、不安感や恐怖心を軽減する効果があります。

問題となっている原因の発見できる

認知行動療法を進めていく中で、心の問題となっている原因を見つけることができ、原因に対し、考え方のクセ(認知の偏り)や自動思考(スキーマ)に変化を与え、従来感じていたストレスを軽減することに繋がります。

薬物療法を脱却できる

まず、薬物療法の役割は、改善というより症状が悪いときにいち早く抑制し、心の安定を急ぎ、かつ、安定を維持するための対処療法になります。

このため、薬物療法は症状が酷い時にこそ強く効果を発揮します。ただ、対処療法は根本的な解決方法ではないため、完全に回復することはなく、薬物療法のみでは寛解後の再発のリスクが高いです。

薬物療法によって心が安定し、医師が心理療法への移行を認めた後、認知行動療法を実践しながら、段階的に減薬・投薬による治療をストップし、寛解あるいは回復を目指すことができ、再発リスクを軽減できる効果が期待できます。

副作用の心配がほとんどない

薬物療法や心理療法の中には、精神疾患との相性、クライエントとの相性など良し悪しがあり、場合によっては精神疾患の症状が悪化することがあります。

例えば統合失調症の患者に精神分析療法を行うと、統合失調症の代表的な症状である被害妄想が悪化するため、用いることができません。

認知行動療法は比較的状態が落ち着いたクライエントには、副作用や症状の悪化の心配がほとんどありません。

応用範囲が広い

心理療法の一種になりますが、精神疾患以外にも活用することができます。

恋愛関係、夫婦関係や親子を含む家族関係、友人関係といった人間関係、さらには職場の人間関係の改善や職場でのストレスの軽減、スポーツ領域など様々な悩みに応用でき、さらには問題解決志向を養ったりすることもできるため、その応用範囲は非常に広く、様々な場面に応じて使用できます。

デメリット

効果が出るまでに時間がかかる

多くのケースは、依頼者様が効果を実感できるのは2か月目(4回目あたりが目安)くらいからで、おおよそ、6か月(12回)~8か月(16回)で終了となります。

早い方は3か月(6回)ほどで終了となる方もいますが稀なケースです。

弊所では取り扱っていませんが、統合失調症やパーソナリティ障害では、改善するまでの期間が非常に長く、1年以上かかるケースも少なくありません。

費用がかかる

カウンセリングルームにおいては1回あたり6,000円~13,000円で、最低でも6回以上実施する必要があるため、費用がかかります。

医療機関で精神疾患治療の受診経験者であるワイエスハートケア代表者の体験に基づく見解としては、医療機関に2年ほど診察・投薬による治療を行っていたことと認知行動療法を比較すると、結果的には認知行動療法が安く上がるという印象です。

認知行動療法を受けられる医療機関やカウンセリングルームが少ない

上記の通り、費用はかかりますが、保険が適用される医療機関で受ければコストを抑えることが可能です。

しかし、認知行動療法を取り入れている医療機関や、技法を正しく理解しその技法を習得している心理カウンセラーが少ないのが現状です。

依頼者様の負担が大きい

面接回数の多さ、認知行動療法の説明の理解、心理検査、悩みの原因探求、心理教育、活動の記録、ホームワークなど実践することが多いです。

寄り添って悩みを聞く一般的な心理カウンセリングとは異なり、積極的に行動していくこと(記録・ホームワーク等)が必要で、依頼者様の負担が大きいです。

このため、自傷他害のおそれがあったり、行動ができないことが継続したり、精神的に大きく不安定など重度の症状が認められる場合には利用できません。

また、認知行動療法を行っているときに悪化したり、重度の症状が現れたと実施者が判断した時は、中止を余儀なくされます。

認知行動療法を受けられる場所

半端な知識と技術であると精神疾患や心の悩みが悪化することがあるため、認知行動療法を受けられる場所は知識と技術に精通している者がいる機関というのは必須条件になります。

このため、認知行動療法を取り入れている医療機関又は認知行動療法を熟知した心理カウンセラーが所属する心理カウンセリングルームのみと考えて差し支えありません。

認知行動療法に資格は必要か

以前から存在する臨床心理士や2018年に創設された公認心理師であっても認知後療法を深く学びません。

資格は特に必要ありませんが、資格はスーパーバイザー(指導者)の下で、知識を深めて実践を重ねていているという証明の一つであるため、認知行動療法に特化した資格を持っている心理カウンセラーが所属するカウンセリングルームに依頼するための判断基準の一つになります。

進め方

回数

6つのステージにわかれ、医療機関では健康保険適用の関係で16〜20回の面談を行うことが多いです。

一般的なカウンセリングルームは健康保険適用がないため、依頼者の状態に合わせて原則6~20回、例外的にこれ以上回数を増やすことも可能です。

時間

1回あたり30分~60分の面談を行うのが原則です。

認知行動療法は依頼者様の負担が大きいことから、60分を超える面談を行わず、30分や50分に設定している機関が多いです。

1回あたりの面談の流れは以下の通りです。

50分を例として、各回の面談の流れとしては、まず、前回のホームワークを振り返るのが一般的です。

続いてアジェンダ(議題・課題)を設定して話し合い、各回ごとの内容について実施し、最後にホームワークを決定して各回終了となります。

アジェンダは、クライエントの状態に合わせ、達成可能なものを具体的に提示していきます。

※ 大きな特徴は、心理カウンセリングだけでなく、ホームワークを通じて日常生活をも検証する点です。患者は自分の不安や症状に関して、カウンセラーと議論するだけでなく、新しい対処方法を実践することで認知のクセを少しずつ修正していきます。

認知行動療法の流れ

  1. 1,いつ発症したか、症状とその経過、発達歴を問診し、カウンセラーが依頼者を理解する。クライエントに認知行動療法の構造(心理教育と動機付け)を説明して理解してもらう。状況によりベックうつ病スケール(BDI)や簡易抑うつ症状尺度(QIDS -J)などの質問紙を使用する。
  2. 2,改善目標についてカウンセラーとクライエントで話し合って設定及び、ホームワーク(次回までに行う宿題)を設定し、活動記録表(配布)の記入する
  3. 3,問題点や改善目標の再確認、認知再構成(コラム法)を開始

    コラム法PDFはコチラ

  4. 4,コラム法を本格的に実施し、気分・思考の観察(バランス思考の説明を含む)して認知の偏りを理解していく
  5. 5,3~4を繰り返して検証し、考え方のクセや自動思考(スキーマ、心の法則)を確認。認知変化の動機付け
  6. 6,認知行動療法を延長又は終了するにあたり、振り返り、再発予防や終了後のアフターフォローを説明する

認知行動療法の方式

専門家が介入する方法

専門家が介入する場合は上記の進め方の通りです。

参考にしてみてください。

セルフで行う方法

アプリやノートを活用し、記録をとるなどして患者さんが一人で取り組むことが可能です。

ただし、認知行動療法はご自身で気づけない自動思考の癖や考え方の偏りに気付くことができる、心に相当のゆとりがあり、かつ、自分を客観視できる方に限定されます。

精神疾患持ちの方や、強度の悩みがある方が実施すると悪化することがあるので注意が必要です。

通常、専門家が介入する方法が終了した後にご自身で行っていく場合に活用される方法と言えるでしょう。

集団で行う方法

複数人で実施するグループセラピー形式の集団認知行動療法があります。

複数人で行うメリットは、カウンセラーとクライエントのみよりも、たくさんの意見を受け、自身の考えを客観的にいろいろな側面から知るきっかけになることもある点が挙げられます。また、他者から良い部分を取り入れることができるという効果も期待できます。

カウンセラーとクライエントの1対1形式が苦手という方はグループセラピー形式を取り入れてみるのも良いかもしれません。

認知行動療法に向かない人
実施するにあたっての注意点

認知行動療法は身体的・精神的な負担が大きいため、不安や落胆、恐怖といった感情が強く出ている状態の方には向いていません。

出来事への捉え方や考え方が大きく偏ってしまうことで正しい認知行動療法が実施できなくなる恐れがあるためです。

以下のいずれかに当てはまる方、又は、実施中に以下のいずれかにあてはまると判断した場合は、一般的なカウンセリングルームでは認知行動療法を実施することができません。

当てはまった場合は医療機関を受診し、医師の指示に従って対処していきましょう。

  • 神経発達症(発達障害含む)に起因する精神疾患である
  • 病気やケガによる身体的機能障害による精神疾患である
  • 薬の服用が増加傾向又は大量の服薬
  • 自傷他害のおそれがある
  • 精神疾患の症状が重度である
  • 感情の起伏が著しく激しい場合
  • カウンセラーとクライエントの話がかみ合わなくなった場合
  • ホームワークの実施が困難である場合

まとめ

認知行動療法は日々進歩しています。

新しい情報を入手次第追記していきます。

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